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夏目 漱石 Archive

79:『坊っちゃん』

坊っちゃん坊っちゃん
(1950/01)
夏目 漱石

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いやあ。面白かった。
恥ずかしながら、夏目漱石の本を読んだのは初めて。
「こころ」は教科書に載っていたので少し触れた事になるけれど、
キチンと読んだのは初めてなのだ。
面白かった。
テンポが良く、読みやすく、愉快痛快。
あっという間に読めた。

主人公である「坊っちゃん」の、正直で純粋で、
曲がった事が大嫌いで、すぐにカッとなる性格は、
見ていて本当に愛おしかった。
どこか、「ライ麦畑でつかまえて」のホールデン君に似た部分を感じた。
反俗精神が強く、へつらいながら世を渡る大人に対して、
あれやこれやと言い返そうとするのだけれど、
しかし、自分にも非があるやとか、ここは黙っていようだとか、
そういった正直さが邪魔をし、口をつぐんでしまう。
また、実際に反論しようとすると言葉に支えちゃったり。
結果として、周りの人間に甘く見られてしまい、さらに腹を立てる事になる。

子供の頃から、「駄目な奴だ」と言われ続けた坊っちゃんを、
「あなたは真っ直ぐでよい御気性だ」と褒め続けたのが、下女である清。
坊っちゃんの事を認め続け、離れてもずっと想っていてくれる清の存在がとても暖かい。
離れてからその清の暖かさに気づき、それからずっと想い続ける坊っちゃんの姿は、確かにこの方は「真っ直ぐでよい御気性」なのだと思わせる。
そういった暖かさが、この物語全体に漂っていて、すごく居心地の良いお話にしてくれている。

印象に残っている部分を引用。

「清はおれの事を慾がなくって、真っ直ぐな気性だと云って、ほめるが、ほめられるおれよりも、ほめる本人の方が立派な人間だ。何だか清に逢いたくなった。」

「考えてみると世間の大部分の人はわるくなる事を奨励している様に思う。わるくならなければ社会に成功はしないものと信じているらしい。たまに正直な純粋な人を見ると、坊っちゃんだの小僧だのと難癖をつけて軽蔑する。それじゃ小学校や中学校で嘘をつくな、正直にしろと倫理の先生が教えない方がいい。いっそ思い切って学校で嘘をつく法とか、人を信じない術とか、人を乗せる策を教授する方が、世の為にも当人の為にもなるだろう。赤シャツがホホホホと笑ったのは、おれの単純なのを笑ったのだ。単純や真率が笑われる世の中じゃ仕様がない。清はこんな時に決して笑った事はない。大いに感心して聞いたもんだ。清の方が赤シャツより余っ程上等だ。」

「貴様等これ程自分のわるい事を公けにわるかったと断言出来るか。出来ないから笑うんだろう。」




ホールデン君と坊っちゃんが、何で似ていると感じたのだろうと考えた。
ホールデン君も坊っちゃんも、世間知らずのお坊ちゃんで、
バカにされたくなくて、大人びた真似をしてみたり、
狡いヤツはコテンパンにやっつけたくなったりする。
けれど、実際は大した力も無くて、
ずる賢い知恵もなくて、
相手を巻く程の口も無く、
結局むかむかとした気持ちのまま過ごす日々。
ホールデン、坊っちゃん、共に共通しているのは、
自分を認めてくれる唯一の存在がいるという事。
ホールデンには、フィービー。
坊っちゃんには、清。
だから、羽目を外しすぎる事も無いし、自分を保っていられる。
ただ、ホールデンはフィービーに会いに行った後、また離れて行ってしまう事で、何とも悲しげな空気のまま結末を迎えるのに対し、
坊っちゃんは辞表を突きつけて仕事を辞めたにしても、清の元へ帰り、清が涙を流して迎えるという暖かな結末を迎えるという大きな違いがある。
その辺りが、読了後に残る爽快感の原因なのだろう。

なんだか、「坊っちゃん」の感想文なのか良く分からない終わり方になってしまったけれど・・・。
唯の勧善懲悪話で無い所が、この物語の支持され続ける所以なのだろうと思った。とにかく、暖かくて痛快なお話なのだ。

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