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太宰 治 Archive

86:『パンドラの匣 』

パンドラの匣 (新潮文庫)パンドラの匣 (新潮文庫)
(1973/10)
太宰 治

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パンドラの箱から最後に出てきた「希望」を「明日へ導く光」と捉えている作品。

『パンドラの箱から最後に出てきたのが希望だとは皮肉なものだ。
希望を持つから裏切られたと感じてしまうのだ』
と、言ったのはかつての恋人か、はたまたどこかの本で読んだのか。
今まで太宰作品と言えば、パンドラの箱から出てきた希望をそのように捉えたものというイメージがあった。
それを気持ちよく裏切る青春小説。

84:『きりぎりす』

きりぎりす (新潮文庫)きりぎりす (新潮文庫)
(1974/09)
太宰 治

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負けた。これは、いいことだ。そうでなければ、いけないのだ。かれらの勝利は、また私のあすの出発にも、光を与える。
(黄金風景 48ページ)



全体的に、愉しい話が多い。
いやらしいほど自虐的な言動は、真面目な語り口調の力を借りて笑いを誘う。
「畜犬談」は何度読んでも可笑しい、傑作だと思う。
太宰治という人物を、これほど愛らしい方だと感じた事は無かった。

冒頭に載せた引用は、一冊を読んで一番心に残った文章である。
子どもの頃にいじめた女中が、今は立派な主婦となり落ちぶれた主人公の元へ現れる。
恥ずかしさから逃げる主人公が聞いたのは、「あのかたは、お小さいときからひとり変わって居られた。目下のものにもそれは親切に、目をかけて下すった」と家族に自慢する彼女の声であった。
この一言が荒んでいた主人公の心に光を差し、過去の傷を癒す。
短編ばかり収められた本作品の中でも最も短い作品である。
主人公の心に引っ掛かっていた鬱々としたものが、光に溶けて消えるまでを、一息で読むことができる。
女中であった彼女の言葉や、その後の主人公の言葉は大変甘いものだけれど、こうして一気に書いてあるとその甘さも嫌味で無い。

他、「皮膚と心」などの女性による語りは、作者が男性であることを忘れてしまうほどであった。
太宰治の中を占める女性の割合の大きさを感じた。

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