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河野 多恵子 Archive
27:『秘事・半所有者』
- 2006-06-13 (Tue)
- 河野 多恵子
![]() | 秘事・半所有者 河野 多恵子 (2003/02) 新潮社 この商品の詳細を見る |
『秘事・半所有者』
河野多恵子 著
新潮文庫
375ページ
良い小説に出会った。
絵に描いたように幸福な夫婦、幸福な家庭の話。
大学のサークルで知り合い、結婚。夫は商社の重役まで昇進し、順風満帆。明るくさっぱりとした気持ちの良い性格の妻。二人の息子も立派に育ち、それぞれに孫も生まれる…。
本当に『平和な』話なのだ。禁じられた恋も、ドロドロした愛憎も、不可思議な現象も、何も起こらない。ずっと明るく、春の穏やかな日差しの下ゆるりゆるりと流れる小川のような、気持ちの良いリズムで進んで行き、そして終わる。
こういった、何も影の無い、終始平和で明るい話は少ないのでは無いか。
何でも無い日常を描く事程難しい。そう考えると尚更、名作と思える。
夫婦、親子、友人、それぞれの間に、小さな秘め事はある。そういった互いに持つ小さな『負い目』を追求する事無く、相手を思い遣る優しさが、あらゆる場面に散りばめられていて、とても暖かい。それらこそ、本当の優しさだと思った。
題名にもある『秘事』は、それら秘め事の中でも特に、夫婦間の互いの負い目を差すのだろうが、それすら影は無く、却って、互いを深く愛する夫婦の、強い絆を感じさせるのだ。
大変読みやすい。登場人物は多いが混乱する事も無い。夫婦を軸に、30年程の人生を描いているのに、ダラダラしたところは無く、一定のリズムで読み進められる。
大変良い小説に出会えた。
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17:『小説の秘密をめぐる十二章』
- 2006-03-22 (Wed)
- 河野 多恵子
![]() | 小説の秘密をめぐる十二章 河野 多恵子 (2005/10/07) 文藝春秋 この商品の詳細を見る |
『小説の秘密をめぐる十二章』
文春文庫
河野 多恵子 著
253ページ
開くと、十二章に分けられた目次。それらは、小説家を目指す人のために書かれた教本のような印象を与える。
小説の書き方を教えてくれる本は、きっと沢山あるのだと思う。(わたしは読んだことが無いので分からないけれど)。
しかしこれは、単なる「小説を書くための教科書」では無い。
様々な小説を例に取り、そこから学ぶべき点を繰り返し述べていく様子からは、米粒を、ピンセットを使って分解するような、途方もない緻密さを感じる。
そこから、登場人物の名づけ方、人称の選び方、動詞・形容詞の使い方など魅力的な内容を、彼女の視点から学ぶ事ができる。
また、河野多恵子の好みが色濃く見える内容でもある。
特に谷崎潤一郎の作品についての書評がとても多く、読んでみたくなる。
小説家を目指す者はもちろん、これからも様々な小説を読んで行きたいと願う人にもお勧め。
この本を読むことにより、小説を読む目は、確実に変わる。
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16:『不意の声』
- 2006-03-11 (Sat)
- 河野 多恵子
![]() | 不意の声 河野 多恵子 (1993/09) 講談社 この商品の詳細を見る |
『不意の声』
講談社文芸文庫
河野 多恵子 著
214ページ
『吁希子は時折、亡父に対面する。彼女が請う時には必ず、そして時には自分のほうからも訪れてくれる亡父と、不思議な、親しい対面をする。』
これが、冒頭の文。
現実と非現実の交錯する不気味な世界の始まり。
途中までは吁希子の半生が、余計な出来事を省き、シンプルなことばで書かれている。
いよいよ父が危篤となったあたりから話の雰囲気が変わってくる。
父亡き後、結婚。夫は酒癖が悪くお金も家に置いてくれない。二人は取り返しがつかない程冷え切ってしまった。しばしば現れる父の霊に励まされ耐え忍ぶが、ついに家を出て実家に戻る事になる。
そこから、ゆっくりと、しかし、確実に話は歪む。
繰り返し書かれる、吁希子による殺人。殺めるまでのあまりに細やかな、リアルな描写。
果たして吁希子は、現実に人を殺めたのだろうか。夫を恨むあまりに見える幻想だろうか。
リアルすぎる、狂気じみた幻想と、交錯する現実が混ざり合い、四次元へ飲み込まれそうな、不思議な感覚になる。
敢えて文中に、現実と非現実の境目を明らかにしないあたりも良い。
亡父に対する異常な親しみ、夫への愛憎、母への畏怖。
逃げ場の無い現実…。そこから生まれた非現実世界での、のっぴきならない行動はあまりに淡々とし過ぎていて、あまりにリアルで不気味。
しかし女なら理解(共感)できる、現実と非現実の混ざり合いを、手に取るように感じる事ができる。とても女臭い。
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