Home > ジャン‐フィリップ・トゥーサン
ジャン‐フィリップ・トゥーサン Archive
75:『浴室』
- 2007-08-08 (Wed)
- ジャン‐フィリップ・トゥーサン
![]() | 浴室 (集英社文庫) ジャン‐フィリップ トゥーサン (1994/11) 集英社 この商品の詳細を見る |
「直角三角形の斜辺の二乗は他の二辺の二乗の和に等しい。 ピタゴラス」
という言葉から始まっていて、
物語は、三つの章に分れ、
それぞれ
「パリ」
「直角三角形の斜辺」
「パリ」
となっている。
全ての段落には番号が振ってあり、
(1)から始まり(50)で終わる(何ともキリが良い!)
とても淡々とした語り口で物語りは進む。
主人公の口調から、
彼の心情は、なかなか読めない。
心を顕わにしないよう、必死に力を入れているようにも感じる。
物語は、
ある日のある時点から突然始まり、
その時はすでに、主人公は浴室で午後を過ごすようになっている。
彼には美しい妻であるエドモンドソンがいる。
エドモンドソンは浴室から出ることを拒む彼の態度に、
心萎ませるものを感じていていたが、
それでも彼の生活を助けてくれていた。
彼は、ある日、思う。
「危険を冒さなきゃだめなんだ」
浴室を出て、
家をうろうろし、
台所で作業をしていた見知らぬポーランド人の男達とうまくいかず、
なんだか気にさわり、
誰にも何も言わず旅に出て、
旅先で、特に何もせず、
ある日、エドモンドソンの声が聞きたくなって居場所を電報で教え、
電話をもらい、
会いに来てもらい、
でも、ある時、どうしてもやりたかったテニスができず、
不機嫌になって、
気づけば、ダーツの的からエドモンドソンを連想するようになり、
彼女の額に矢を放ち傷を負わせ、
彼女はパリへ帰り、
主人公は風邪をこじらせ入院し、
お医者さんとテニスをすることになるが、結局土壇場でできなくなり、
へそを曲げて、そのままパリへ帰宅。
手紙が貯まっていたから、それを読みつつ浴槽へ湯をはる。
なにが原因か分からないが、午後を浴室ですごすようになった。
ある日、思う。
「危険を冒さなきゃだめなんだ」
ここで、冒頭のピタゴラスの定義を思い出した。
物語は、
三角形の一点からスタートし、
長い斜辺を通り、
また、始めの点へ戻って来た。
ただ、淡々と、心情を表わさずに書かれているのに、
なんだかユーモアがたっぷりで、
特にパスカルの「パンセ」について英語混じりで語る所などは、
笑わずにはいられないくらいだし、
何故、浴室で過ごすようになったのか、
最後まで明かされないし、
始めに出てくるエドモンドソンが妻だという事は、
なかなか教えてくれないし、
旅先がヴェネチアだということも、
なかなか明かされないし、
何故そこまで、ヴェネチアでテニスをすることにこだわるのか、
なかなか理解できないし、
結局、振り出しに戻るし、
可笑しいのだ。
主人公は、いかにも自己完結型の人間だ。
それがとてもユーモラスに書かれている。
けれど、どこか素直に笑えないでいる。
それは、自分自身がそれに近い人間だと分かっているからだ。
彼は人に心を開かない。
エドモンドソンも、お医者さんも、
あんなに素直に明るく接してくれるのに、
彼は直ぐに閉じこもろうとしてしまう。
そしてそれを続けると、突然その殻を破りたくなる。
しかし結局、その殻へ戻ってしまう。
一方、変わらず拘り続ける「不動性」。
運動の可能性の不在、すなわち「死」へのこだわり。
「動」を見つめ、同時に自分の中にある「動」を抑えようと力む。
しかし、いくら身動きしない状態を保ち続けようとしても、
それは不可能な事なのだ。
やけどするように熱いチョコレートの下で、
ヴァニラが少しずつ溶けていくことを抑えられないように。
三角形の辺の上を、ぐるぐる巡るお話。
時間が経つにつれ、素直に笑えなくなっている自分がいた。
- Comments: 0
- TrackBack (Close): -
Home > ジャン‐フィリップ・トゥーサン
- Search

