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200801

83:『影をなくした男』

影をなくした男 (岩波文庫)影をなくした男 (岩波文庫)
(1985/03)
シャミッソー

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『影をなくした男』と聞いてすぐに頭に浮かんだのは、海と月夜と逃げる影のイメージだった。
はて、何のお話だったかしらと調べてみたら、ピーターパンであった。
幼少の頃繰り返し見たディズニーアニメのピーターパンのイメージだったのだ。
ある夜ウェンディ姉弟の部屋へ、忘れ物の自分の影を取り戻すためピーターパンがやって来る。
逃げ回る影を捕まえたウェンディは、ピーターパンの靴底へそれを縫いつけてやる。
そのお礼にピーターパンはティンカーベルの魔法の粉を振りかけ、ウェンディ達をネバーランドへ連れて行くのだ。

さて、シャミッソーの『影をなくした男』はどうか。
貧乏であった主人公シュレミールは、偶然出会った灰色服の男(後に悪魔だと判明)にせがまれ、いくらでもお金の出てくる革袋と引き換えに自分の影を渡してしまう。
革袋のお陰で大変なお金持ちになるが、影がないために人々から恐れられ、世間からつまはじきにされる。
順調に進んでいた恋も、たとえお金目当てであったとしても慕ってくれていた人々も皆、彼に影がない事を知ると恐怖を抱き、追い払おうとするのだ。
そんな男が歩んだ人生を、著者シャミッソーに語るという形で書かれた物語。

影とは一体何だろう。
シュレミールに影をせがんだ男は、近くにいても全く気づかないような男であった。
つまり、「影が薄い」男であった。
物語の中でシュレミールは、影がない事がばれるのを恐れ、日陰を歩いたり木立で人と会ったりするが、まさに「お天道様に顔向けできない」状態なのである。
普段生活している時はたいして気にしない「影」も、慣用句として存在していると言うことは、それなりに存在感のあるものなのだ。

あって当たり前と思い、気に止める事さえない物って何だろう。
もしもそれを失ってしまったら、自分はどうなるだろう。
そんな事を思いながら読んだ。
もしも自分に影が無かったら、きっと日陰を歩いて過ごすだろう。
影が無い事を悟られぬよう、お天気の悪い日しか出かけないだろう。
そこまでは、シュレミールと一緒だ。

シュレミールはその後、さらなる悪魔の誘惑を断ち切り、自ら孤独の人生を選ぶ。
望むだけ出てくるお金を使って嫌な人間になる事もなく、自分には影がないのだという事を自覚し、信頼し愛する人達をこれ以上傷つけたく無いという思いが故の選択であった。
悪魔に騙されたとは言っても、羊のように純真な訳でも無く、かと言って悪い魂胆がある訳でも無い。そんな、普通らしさが彼の魅力に感じる。
だからこそ、この物語を通して、自分にとっての影とは何か、静かに考える事ができたのでは無いか。
これで、派手に悪魔をやっつけたり、はたまた誘惑に負けて奈落の底に落とされたりなんてお話だったら、ただ物語を楽しむだけで、それ以上の事は考えなかったと思うのだ(それはそれで楽しい読書だけれど)。

結末は、正直物足りなさを感じたが、全体的に優しい口調でメルヘンチックなのが良かった。
随分優しい人のお話を聞けたなと、ほくほくする感じ。
小さい子が読んでも良い話だと思う。
影って何だろうね、って、お話してみたい。
こどもに限らず、様々な人と。

82:『夫が多すぎて』

夫が多すぎて夫が多すぎて
(2001/12)
モーム

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戦争で夫を亡くした美しい婦人ヴィクトリア。
亡き夫との思い出を胸に、夫の親友フレデリックと再婚した。
フレデリックも、亡き夫ウィリアムも、どちらも同じくらい愛してる。

そんな妻の元へ、ある日突然、帰ってきた。
最初の夫、ウィリアムが。

美女ヴィクトリアを巡り、壮絶な戦いが始まるのか。
それとも、涙、涙の別れが待っているのか。

どちらもハズレ。

フレデリックはヴィクトリアのワガママな生活にうんざりしていた。
ウィリアムも、ヴィクトリアのワガママな性格を思い出してきた。
結婚する前は、あんなに可愛らしかったのに・・・。

二人の夫は、どれだけ自分が相手よりヴィクトリアを愛しているかとアピールしながら、水面下では、互いにヴィクトリアを押しけ合う。
あくまでも、紳士的に。

そんな二人の様子を見たヴィクトリアは言う。
「二人ともお互いにやきもちを焼かないでね。
 私は二人を同じように愛しているのよ。」


ヴィクトリアは愛する二人を傷つけないために、別の人と結婚することを決める。
お相手は、そんなにタイプではないけれど優しくてお金持ちのペイトン氏。

二人の夫は大喜び。
と、そんな様子などおくびにも出さず、
面倒な離婚手続きにも真摯に協力し、
最後までヴィクトリアへの惜しみない愛をにじませる。

ヴィクトリアはランチに出かける。
残された二人の夫は、ペイトン氏からヴィクトリア宛てに届いたランチとシャンパンを拝借し、二人の自由に乾杯。
そこで幕が下りる。



ヴィクトリアは大変美しいが、おとぼけさん。
何でも自分に都合の良いように解釈してしまうので、面白い。
面白いが、いかにも女性らしいとも言える。

そんな女性の身勝手さや男性のずる賢さが、さらりと書かれている。
あちこちの台詞に共感出来て、男性観・女性観は国境も時代も超えるのだなと思った。


相手を傷つけるようなぐさりと来る言葉が無く、どこにも「悪者」がいなかった所も好きだ。
皮肉たっぷりなのに楽しくて明るくて、軽妙なテンポが気持ちの良いお話だった。


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