- 2007-02-26
- 谷崎 潤一郎
![]() | 痴人の愛 谷崎 潤一郎 (1947/11) 新潮社 この商品の詳細を見る |
ううーん。
注釈が、多い。無駄に多い。
『痴人の愛』だけではないけれど、新潮文庫の谷崎潤一郎作品は、やたらと注釈を付けたがる。377ページ読み進める間、1ページ平均5個くらいあったんじゃないかな。「その舞台背景を知る為に知っておいても良い」くらいの事でも、いちいち注釈をつけるので、そのたびに巻末へ目をやらねばならない。読みづらい・・・。
と、新潮文庫の文句を言っても仕様がないですね。
『痴人の愛』
そのまま。「痴人」が「偏愛」に溺れ、堕落していく話。
生真面目で、当時の公務員よりも高給を稼ぐサラリーマンの譲治が、カフェ(当時のカフェで働く女給は、今で言うホステスのようなものだったらしい)で見初めた美少女ナオミを、自分好みの女に育て上げようと思い、妻にする。ナオミは混血児のような美女で、手足が長く、目鼻立ちは凛々しく、譲治はその美しさに夢中になり、ナオミをさらに美しく着飾ろうと、贅沢の限りを尽くす。
譲治の思惑通り、女優と見まごう程美しく成長したナオミだけれども、その実は我儘放題、愛欲に溺れまるで娼婦のように振る舞う。その魅力に群がる男友達は絶えず、とっかえひっかえ連れ込むナオミに、ついに嫌気の差した譲治は、ナオミを家から追い出す。
しかし、既にその、成熟した妖艶な躰に魅了されていた譲治は、ナオミを追い出した事を悔やみ、精神的に追い詰められていく。
そこへ、何事もなかったかのように帰って来たナオミ。何があっても、二度とナオミを手放したく無いと思った譲治は、身も心もナオミの奴隷となる。
ナオミを、自分の好みの、ハイカラな女性に育て上げようと、思う。
けれど、実際に育て上げられたのは、譲治自身。
どんなに我儘で、どんなに意地汚く、どんなに男癖が悪くたって、その魅力には叶わない。譲治はナオミに、完全降伏していたのだ。
初めて彼女の魅力に気づいた時から、ずっと。
追い出された後、ひょっこり戻ってきたナオミは、以前にも増して妖艶になり、その魅力を顕わにする加減まで心得ていた。
譲治はその肌に触れたい、唇に触れたいと願うけれど、指一本触れる事すら許されない。触れたら最期、昔のように堕落してしまうのが目に見えているから。けれど触れたい!
そんな譲治の気持ちを弄ぶように、わざと接近したり、焦らしたりするナオミ。
「いやならあたし、誘惑するわよ。―譲治さんの決心を踏み躙って、滅茶苦茶にしてやるわよ」
「友達として清く附き合うのと、誘惑されて又ヒドイ目に遭わされるのと、どっちがよくって?―あたし今夜は譲治さんを誘惑するのよ」
全てを心得ているとしか思えない。譲治が「天性の淫婦」と思うのも納得。
まだ少女だった頃からナオミは、考えなくとも、男を思いのままにする術を知っていたのだろうか。
それとも、譲治がナオミを、そんな女に仕上げてしまったのだろうか。
多分、その両方なんだろうな。
恋愛って、多かれ少なかれ、こんな心の戦いが繰り広げられているのだろう。
相手を疑ったり、かと思うと無闇に信用してみようとしたり。
理想に育て上げようと思ったり、知らぬ間に掌で転がされていたり。
この物語は、そういった「普通の人間」の「よくある恋愛」の一つなのだと思う。
きっと、誰かが誰かを盲目に愛している時、傍で見ればその人は「痴人」に見えるんじゃないかしら。
話は派手だけれど、きっと、そういう事が言いたかったんじゃないかな。
描写は矢張り、美しかった。
性描写も露骨でなくて良い。
「よし、じゃあ馬でなく、人間扱いにして上げる、可哀そうだから。─」
そして私とナオミとは、シャボンだらけになりました。・・・・・・
ここに辿り着くまでの、譲治の焦らされ振りもあって、かなり、ここは・・・。
ナオミに着せる衣装の質感や、ナオミ自身の肌の美しさ、脚の美しさ(谷崎さんは脚フェチなのね)などは、流石。
- Newer: 63:『新編銀河鉄道の夜』
- Older: 61:『猫と庄造と二人のおんな』


